これは、一九八二年から一九八九年にかけて、延べ十カ月に渡って七カ所の野菜の原産地、二〇〇二年にイネの原産地に探検に行った記録である。世界には全部で八カ所の野菜や作物の原産地があり、主要な作物は七カ所で生まれたが、日本は含まれていない。日本の主食であるイネやムギはもちろん、日本の野菜のベストテンを消費量順に挙げると、大根、キャベツ、タマネギ、白菜、ジャガイモ、キュウリ、トマト、サツマイモ、ニンジン、レタスとなるが、どの野菜も日本生まれではない。
(中略)
調べてみると、奈良時代までに日本に入っていた野菜が多かった。昔は種子だけを送るなんてことはなかったはずだから、アジアの各地から栽培方法を知った民族が種子を持って日本にやってきたことになる。オーバーにいえば、古代の日本はアジア各地からやってきた多くの民族の作ったクニが割拠する土地だったのではないか。こう考えた私は是非、日本から原産地までの道を辿り、野菜や米の先祖である野生植物も見てやろうと思うようになった。原産地とは野生植物を人間が栽培化した土地のことである。
(中略)
昔の日本はクニの集まりではなかったかと思って出掛けた探検だったが、その期待は充分満たされた。東アジアのいろいろな国で、知人によく似た顔の人や、初めて会っても懐かしい思いのする顔をした人々と会うことができた。逆に、現地で私はチベット、中国山東省、韓国の人間と間違えられ、望月カメラマンはネパール人と間違えられた。こんな土地から日本までやってきたのか。各国で食べた、原産地ならではの実においしい野菜とともに、忘れられないことである。
■書評
1982年から1989年にかけてと2002年に行われた世界中で大規模に作られている野菜と穀物の原産地を訪ねる旅の記録。
セコメントをする